香水―ある人殺しの物語 (文春文庫)
パトリック ジュースキント
文藝春秋 刊
発売日 2003-06
舞台は18世紀のフランス。町は汚穢(おわい)にまみれ、至るところに悪臭が立ちこめていた。そこに、まったく体臭のない男がいた。男にないのは体臭だけでない。恐ろしく鋭い嗅覚と、においへの異様なまでの執着以外に、男には何もなかった。
物語は至高の香りを求めて、めくるめくにおいの饗宴が繰り広げられる。ドアノブのにおい、石のにおい、花の香り、動物のにおい、果ては目立たない人のにおいに至るまで、ありとあらゆるにおいが立ちこめる。登場人物も、究極のにおいの美少女以外は、主人公も含めて恐ろしくグロテスクである。まさしく魑魅魍魎(ちみもうりょう)。裏道、闇、疫病、屠殺、汚濁…にもかかわらず、なぜ本書からは恐ろしく魅惑的な香りが立ちのぼってくるのだろうか。
パリには複雑で洗練された味わいがベースにあるように、生ハムやチーズのすえたようなにおいが鼻を突いても、この町で、人を引きつけてやまない魅力がグロテスクなのかもしれない。ストーリーも舞台も登場人物も、実に巧妙に展開している。一度手にとるとテンポよく、一気に読んでしまう。読者は主人公とともに限りなく奥深い嗅覚の世界をさまよい、陶酔させられることだろう。
著者は1949年ドイツ生まれ。本書は87年世界幻想文学大賞受賞作品。ほかに『コントラバス』、『鳩』、『ゾマーさんのこと』などが翻訳出版されている。(小野ヒデコ)
行間から匂いがたちのぼる… 2007-08-24
えてして美しさとはこういったものかもしれない。
どんなに人を魅了し幻惑させるものでも、それが作られる舞台裏は醜悪で生々しいものが満ちている。本書で主人公が作る香水のように。
魅惑の芳香と汚物のふんぷんたる悪臭。本書ではこの2つのコントラストが激しい描写となって読者を襲う。肥溜めに膝まで浸かりながら薔薇の香りに陶酔しているような、そんな不可解な気分に読中ずっとなっていた。かつてないほど美しいものを描いているシーンでも漂う雰囲気はどこかおどろおどろしく気味悪くさえある。
そして、その独特の雰囲気を背景に展開されるストーリーはそんなばかなといういい意味で驚きの連続だ。目的達成のために次第に頭を働かせるようになる主人公も怖い。
人としての範囲から逸脱させてしまうほどの才能。
その恐ろしさを存分に楽しめた。
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